Graciela Susana_グラシェラ・スサーナさん _白い冬(Winter White)
1余分な幸福を私に下さる?
奥様の余分なダイヤモンドを白い指に?
私は飛べない鳥?
私は歩くヒト
2筋のない物語り
意味のない話し
手を離し
用意する退屈
3丸めた背中
乾いた唇
指に触れ眼差しで戯れ
大儀に落ちる
4余分な幸福を私に下さるの?
紅を付けて待って
私は不平の化粧を落として
又、色を塗ったり剥がしたり
5弄(いじ)り回した顔で
息せき切って取り入ろうとする
腐ったリズム、だれたメロディー
傾く項(うなじ)
6人は中庸を重んじなければならない
私は駅へ急ぐ
言葉を集め共に染まり
たちまち巡る経緯
7滅びを愛しみ
有るか無しかの線上を往き重ね
明日へ急ぐ
私は性急を先んじなければならない
8偽りをヒトの唇に捉え
水に色を溶く
直向(ひたむ)きを美と心に刻み
私は性急を先んじなければならない
9性急を先んじ中庸を疎んじ
表に立つ
実を捨て傷を構わず
慎みの居を構える
10束縛する首
強がる切れ込み
絡む管
我を封じ人に染まる
11余分な幸福を私に下さるの?
緩やかに成る途途
ひたすら満たない胸に
人並の
12幸福は従う法則
希望の棲む家
靴を脱ぎ窓を拭くと
みたいな灯が消えそこに座っているような
13幸福は通り過ぎた橋
それはそこに置いてある
そこに置いてある
或るものの方へ小さくぶれては何かがあったような
14そこに置いて来た赤い靴
汽車が駅を発ち
船が陸を離れ
そして踊らない女
15中庸を重んじなければならない
皮が千切れるほど踊ってはならない
行く道は平ら
でこぼこを押し切って平ら
16たれか、或る山と谷を知りませんか
躊躇わず身を捨て軌跡をなぞる
蟠(わだかま)りの節を小声で歌う
たれか、或る鳥と物言わぬ雨の夢を見ませんでしたか
17釣り合いの取れた目鼻を取り外し
拗(ねじ)ける女と巻き付く手を作る
迸(ほとばし)る血を盛る
たれか、或る牢獄を知りませんか
18中庸を重んじなければならない
逸(はや)る思いに耐えなければならない
摘んだり断ち切ったり蔑(さげす)んだり企んだり
山と谷を定め鳥は雨に打たれ
19私(わたくし)だけに雨が降る
昨日の疵を貫き
或る者の黒白(こくびゃく)を弄び
私(わたくし)だけに雨が降る
20山と谷に踏み込む細い足
よくよく飼い馴らす家は
逃げ道を揃える
爪が撓(しな)る身が沈む
21長たらしい秋に耐えなければならない
いい加減な色
柔らかな実
中庸を重んじなければならない
22よくよく飼い馴らされた人は
幸せにラインを引きたがる
首が傾く目が落ちる
たれか、人の行く道を知りませんか
23美(うるわ)しい夕暮れ
失う声
忘れられないように床の片隅にいる
たれになれば両手を突いて立ち上がれる
24いい加減な色
柔らかな実
忘れられないように庭の片隅に佇む
たれか、人になる季節を届けてくれませんか
25長たらしい夜に耐えなければならない
仮寓に住み
毬を捨てて石にならなければならない
ぎざぎざの
26弄(いじ)り回す空
赤い三日月
呪(まじな)いで巡り来る幸福
余分な幸福を私に下さるの?
27奥様の余分なダイヤモンドを老いた指に?
私は歩けないヒト?
捨てた街
千切れた記憶
28片隅でただ失って行く
貴方は幸福ですか?
長たらしい幸福に溶ける色
熟しきった実
29仮寓に住むいい加減な記憶
忘れられたい昨日
忘れたい
幸せのライン
30熟した柿の実を食べています
分かり易い望みがほしい
釣り合いの取れた声を聞き
忘れた歌が聞きたい
31張り切る空を鳥が渡る南へ南へ
歩けないヒトに価値のない方角へ向かう
操り人形のよう
ヒトになれない私は俯き揺れる
32赤い靴を履こう
片隅を広げ
折れ曲がり
手の付けられない人形のように
33踊ろう
海を広げ
陸を広げ
両手を広げ
34赤い靴を履いて
踊ろう
ヒトになれない鳥になれない
ヒトになるまい天を翔けまい
35幸福は通り過ぎた橋に
そこに置いてある赤い靴
そこにいた踊らない女
人形になりたくない女
36幸福は一枚の便箋の上に
粗筋を書いてごたごた塗りたくって
押し込めて
破って明らめて
15:44 2012/11/15木曜日