Here it is
中学に入る時
引越しした
わたしはその時から言葉をどうしたんだろう
関心を持ったわけでもない
わたしはわたしの声を聞いた
わたしはわたしという人間のことをまだ分からないでいた
わたしはわたしがすきだった
今もわたしがすき
わたしはすきだったけれど
わたしをすきになって欲しいと思う気持ちが
あったか
なかった
ないよ
あのころも
いまも
わたしはけれど
ことばがわたしに近付いてくれるよう
わたしがことばに近付くように
わたしがわたしという
わたしという字がもつ
丸みとか・・
わたしはなかなか理解されなかった
わたしはわたしをどうしていいか分からなかった
わたしがわからないわたしを誰かに分かってもらうためには
わたしを知らなければならない
わたしは本をよんだ
最初に読んだのは
井上靖の「あすなろ物語」
わたしはわたしの知らない不可解なものがあることを知った
井上さんの本を読んだ
学校にあったものはみな読んだ
そしてヘッセを読んだ
学校にあったものはみな読んだ
学校がどういう所か知っていたが、辞書で調べた
しらべるということがどうする事か知っていたが、辞書で調べた
本の中にあるすべての分かる言葉も、分からない言葉も、辞書で調べた
不可解なもの
それはわたしの中にあっただろうか
わたしの中にもあったけれどわたしは不可解なまま放っておくことができなかった
わたしはすべてを調べなければならなかった
わたしの中の不可解なものの正体と
井上靖の書いた不可解なものの正体は同じだった
わたしはわたしを惑わす男というものを知り尽くそうとした
実にタヤスイ仕事であっという間に終わった
わたしが梅田の地下街で待ち合わせをしていれば10人は誘いに来た
誘いに乗ったことはない
わたしの後ろをつけてきた男が二人いた
「後姿が美しい」という理由だった
わたしはわたしが美しいことを知らなかった
わたしを「尊敬している」と男は誰も言った
わたしはわたしを尊敬する男に興味がない
しかしわたしを尊敬する男しかいなかった
男の事はもうどうでも良くなってわたしは不可解なものが何一つなくなって世の中がみんな見えてしまって不可解なものが分かりたくもないものに変わり、夫と結婚した
この頃わたしは電車の中の痴漢に吐き気がするほどだったから
夫の欲望に背を向けようとする姿に引かれた
わたしは欲望を全て貪り尽くした後だった
夫はわたしを「尊敬する」とは決して口にしなかったし
夫以上に頭のいい男には出会えなかった
東大の男も知っているし、京大の男も、阪大の男も知っている
みな退屈な男ばかりだった
夫はいい言われる大学を出ているわけではないが誰よりも頭が良かった
夫はだれよりもいいひとだった
私は生きることも大した意味があると思ってもいないし
実際蟻が生きてわたしが畑で握りつぶして「死んじゃった」
それと同じ
人間だからとくべつなものは何もない
ただの動物に過ぎない
命はぎゅっと力を込めて潰してしまえばもう何処にもない
言葉も同じだった
わたしの言葉は奪われ今もない
わたしはうまれていちども嘘をついたことがない
嘘をつくひとがいることを知ったのは19歳
わたしは嘘はつかない
嘘のつきかたが分からない
嘘をつくためのことばがわたしの中にひとつもない
わたしは真実の言葉だけで書かれた小説を読んだ
だから
嘘をつくためのことばがわたしの中にひとつもない
嘘のつきかたが分からない
わたしは嘘をつくことができない
わたしは真実だけで自分をつくった
わたしはだれよりも美しいことばを遣っていた
美しいことばはわたしを美しいこころの持ち主にした
わたしは美しい生き方しか
できない
しない
レナードはわたしを見つめている
わたしはレナードに見つめられている
今日もわたしと一緒に生きた貴方
失くしてはいけなかったのは貴方です
2:22 2010/03/11 木曜日