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涸れた倦み

  • 人間をつくりたいひと - 1月1日からThe Grapes of Wrathを翻訳し始めました。ドイツ系アメリカ人Jhon Steinbeckの作品です。邦題は「怒りの葡萄」です。私は邦題を付けていません。ヘンリィ・フォンダで映画化されていますが、字幕はありません。文庫本で上中下と3冊になる長さです。昨日はセンテンス二つ、今日は長いセ...
    2 週間前

涸れた倦み

2010年12月25日土曜日

見失う

QUEEN - Don't stop me now with lyrics

筋肉のついていない顔
揺れるような居住まい
ひとりでに伸びた長い髪
お前はいつも空ろ

お前は連れ去られ
陵辱されたものの眼をしていた
意思を持たなかった
鍛錬という言葉の外で
お前は揺れるように暮らしていた
お前は魚に似ていた

今日私は小説を読んでいて
突然思い出したのだ
あの路地の夢
いつも選んでしまう
寂しげなあの道

時間が悪魔のように先を急かし
男を呪われたように思った季節
屋上で干しっぱなしにされたシーツに
濡れた顔を撫でられながら
見上げた星の無い空
私はお前のような目をして
煤(すす)けた空でちぐはぐに羽をばたつかせた
助けは呼ばない
むしろ墜落を焦がれていた

私はついにその路地に迷い込むことはなかった
夢を見ることもいつの間にか無くなった
最も嫌った
最も恐れた
時が
私を長い悪夢から救い出した

誰かがその夢を盗んだ
夢は用意周到に脚色を施され私は演じた
愚かでさもしい役だ

そして空ろなお前の瞳に再会した
お前たちの前で私は無力だった
お前が知るより前から私はそこに居て
もっと深い場所で
息も絶え絶えに救いを待っていた

あの日お前の監視下で眠りに就き
上から覆いかぶさる気配を感じて
もがきながら何度目かにやっと
助けてと夜の海で声を発した

たくさんの差し伸べられた腕を見た
どれも置き去りにした腕だった
私はその全ての腕につかまって泥のような海から
這い出た

お前は魚のような目で救われていく私を見た
あの日から何か大事なものを泥の海に
忘れてきたような気がしてならない
時々ふとした加減で
お前ののっぺらぼうのような面影と
空ろな眼を懐かしくさえ思う

夢の中のあの路地は一見活気づいているようだが
そこにいるものは皆男も女も犬も猫も
魚のような目をしていた
二度とその夢を見てはならない
演じてはならない

2004年11月