五輪真弓 悲しい台詞
こんな日はふたりで森に行きましょう
明るい場所を素通りして
手に手を取って
奥へ奥へ駆けて行きましょう
ふたりに光栄(ひかり)は要らないのですから
木々がすっかり遮るまで
奥へ奥へ駆けて行きましょう
天と地の境目がわからなくなるまで
深く深く這入りましょう
今日と明日の区別がつかなくなるまで
遠くへ遠くへ駆けて行きましょう
二人疲れてあらゆる感覚を失くしたら
互いの顔さえわからなくなったら
濡れた苔の上に向き合って座りましょう
あなたの中身と私の中身を見せ合い
あなたが生きた汚泥と私が生きた汚泥の中身を
手を入れて探って見ましょう
あなたが立ち止まるわけと私が立ち止まる理由を
そこに有り余るほどの罪があるのなら
私は罪其のものだからあなたを身軽にしたい
けれどあなたの誇りは何もかも
自分のものにしておこうとする
ならばふたりで罪を重ねましょう
二人にできるありとあらゆる罪を味わいつくしましよう
醜いものを見て見尽くしましょう
精も根も尽き果てるまで
二人に終わりが来るまで
罪を懼(おそ)れず罪を糧に生きましょう
あなたも私ももう闇の中で互いの姿さえ
判別(わか)らなくなっているのだから
2004年9月
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