愛の蜃気楼 (砂の城) - 五輪真弓 (Mirage of Love - Itsuwa Mayumi)
今日という日は私が私であっても良い日です
尊い一日です
毎日私を捨てに工場に出かけます
其処での私はどうやらつまらない無用な工員らしくて
型枠の中にそのように嵌(は)め込まれているようです
有益であってはならないように精神の矯正を
怒鳴り声といたたまれない愚痴と互いに罵りあう陰口によって
受けています
其処では嘘をつくことなど当たり前
傷つけることは寧ろ美徳でさえあるのです
自分を守る為なら何でも許されます
私は代価を得る為コンクリートになりました
誰彼と無く心を許すことはありません
口は堅結びでめったに開きません
今日という日は私が私を放り込んだ型枠から解き放たれ
私が私の為に息をすることが許されて
誰かの言葉で惑わされることも無く
故意に突き刺す刺々しい苛立ちに怯えることも無く
ゆったりとあるがままに私は私のように振舞うことが許されています
唇に優しい色の紅を引きます
頬も春色に染め上げます
鏡の中の私を見つめて微笑みかけてやります
今日という一日が与えられたこと
心地よい歌や心地よい居場所が用意されていること
暖かい食事と思いやりを頂いて
ありがとう私を包んでくれている全て
今日という一日の中で私は溶けて柔らかくなりました
2006年2月
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