五輪真弓 想い出を捨てて
朝起きて
ご飯とお味噌汁お漬物
ご飯は子供のお茶碗に半分
お味噌汁は豆腐と茄子
お漬物は奈良漬
食べたくなくても食べる
食べたい時も食べる
食べて美味しくないと感じても食べる
自分がどう思う
身体が何を要求している
朝からそんな肝心なこと
ふんふんふん
知ったこっちゃねえのさ
生きるのさ
今日もがむしゃらに
屁理屈捏(こ)ねて筋道立てたよ
お利口さんを決め込んで気取って見た
何一つ上手くいったことなんてないのさ
思い通りになることなど皆無
だから生きてみる
生きるだけ
鼓動する左のアツイ塊がある限り
逸れていく軌道
修正できない軌跡
しゅんとして
しょぼんとして
どぼんと泥濘(ぬかるみ)にはまってみる
やってみればいいじゃないか
生きてみればいいじゃないか
どじ踏んでもいいんじゃない
百数十年先みんな轆轤(ろくろ)
誰も何もお前の今日を知る者はない
お前と私が愛し合ったことも
お前と私が傷つけあったことも
シーンと静まり返った宇宙の端くれの
端くれの屁たれのお前と私
ふんふんふん
知ったこっちゃねえのさ
心も体も思い通りには動かない
てんでばらばら支離滅裂
くどい説明は要らない
ありふれた景色拒絶
激しく無様でありのままでいい
がむしゃらに生きる
体がアツク脈打つ限り
ホントウハツラインダなんて言葉拒絶
明日を奪取
明日へダッシュ
明日へ脱出
惨めだった今日を脱出
そんな悲しい言葉じゃない
明日は
ほら
目を閉じればオルゴールの小箱
そうっとねじを巻くと胸の高まりと共に耳に届いた旋律
少女のようにときめいて
今日とは違う輝きつかみに行こう
違う夜明けを目覚めよう
明日へ明日へ雪崩のように生きよう
私の悩み私の愚痴私の痛み
尽きることのない孤の足枷(あしかせ)
おなかのずうっと下の方に押し込んで
隠すのではなく深く感じて
アツク収縮繰り返す左の赤いもの
信じられるもの
確実なもの
この瞬間の肌のぬくもり
春の日の乾いた田んぼ一面に咲く蓮華
つなぎ合わせて
凝縮した瞬間をつなぎ合わせて
怠惰な瞬間織り交ぜて
生きることは瞬間
時は既に去った瞬間の堆積
2006年8月
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